イチオシ~ その3
「阿部昭18の短篇」阿部昭著
日常的な生活、どこにもありそうな家庭の生活をこう"単純に"書いているようにみえて、それが生々と際立ってくるのは、阿部昭氏の独壇場ともいえる。
単純に書いているように読者に思わせるところが作者の苦心のありどころなのでしょう。
「桃」などには、そういう目立たない技巧が見事に結実していると思える。
「冬。真夜中。月が照っています。子供の自分が、母と桃の実を満載した乳母車を押しています。」
それだけの記憶から、さまざまな記憶が動員され、あれはいつだったか、母と自分が乳母車にのせていたのは、はたして桃だったか、冬の季節に桃など運ばないではないか、と疑問を次々と繰りひろげていくこの作品は、大好きです。