イチオシ~ その2
「阿部昭18の短篇」阿部昭著
父は太平洋戦争後二十二年経って病死したのですが、海軍では志を得られなかったようで、海軍や戦争の話はあまりしなかった。
「その代り、半生に亙る海軍生活を一気に飛び越してむしろ中学時代のことをしきりに思い出すようだった」そういう父を「殴ってやろうとして遂に殴れないで終ったこと」がある。
その父の回想が、この作品の主題をなすのだが、父と子の対立と親和が、今度は自分が父となり、自立する子と対立することになるのが「ミ月の風」です。
部屋の物を物置に入れるか入れないかで言い争う子と母親を見て、その父親は、拳固でいきなり一発くらわした。
「出て行け、荷造りしてきょう中に出て行け」と言って自分の部屋に戻ったあと、父親は回想する。
「おやじを殺してやる。
そんな一行を日記に書きつけた日が、その昔自分にもあったことを父親は思い出しています。
」息子が二階のトイレに逃げこんで、中から鍵をかけてしまって出てこなくなった「みぞれふる空」という作品も父と子の対立を主題としています。
酷烈な、厳格な父親の言行が続くが、どことなくユーモラスになっているのは、作者の筆の冴えだ。